1.はじめに
コーチングにおいて、コミュニケーションの基礎となる技術の一つが「傾聴」です。しかし、「傾聴」と言っても、ただ相手の話を聞いているだけではなく、その奥深さと重要性は計り知れません。そこで、今回は特に初心者の方に向け、コーチングで活用する傾聴の技術について詳しく解説していきます。
この記事では、コーチングにおける傾聴の本質と、実際に傾聴を行う際の具体的なテクニックを紹介します。また、傾聴力を高めるためのアドバイスも交えていきますので、これからコーチングを始める方や、すでに始めている方であっても一読の価値はあります。
それでは、傾聴の世界へ一緒に踏み込んでいきましょう。
2.コーチングと傾聴の重要性
(1)コーチングにおける傾聴とは何か
コーチングにおける傾聴とは、言葉だけでなく、話す相手の感情や思考、意図、態度までを察知し、深く理解する技術のことを指します。対話ではなく一方向の会話ではなく、コーチングでは双方向のコミュニケーションが求められます。
以下に具体的な要点を表にまとめてみました。
傾聴のポイント | 具体的な行動 |
---|---|
相手の話に集中する | 目を見て聞く、うなずく等 |
非言語的なメッセージも受け取る | 言葉で言われないことも察知する |
相手の感情を理解する | 言葉の背後にある感情を読み解く |
このように、コーチングにおける傾聴は、相手のメッセージを深く理解し、それに対応するための重要なスキルとなります。
(2)傾聴がもたらすコーチングの効果
コーチングにおける傾聴は、相手の内面を深く理解し、より具体的なサポートを提供するための重要な手段です。
傾聴により、以下のような効果が期待できます。
- 理解の深まり:コーチは相手の話を深く聞くことで、相手の思考や感情、困難な点などを深く理解できます。これにより、的確なアドバイスや支援が可能となります。
- 信頼関係の構築:相手が自分の話を理解し、共有してくれていると感じると、コーチとの信頼関係が築かれます。これは、コーチングの成果を大きく左右する要素です。
- 自己理解の促進:傾聴を通じて、自分自身の考えや気持ちを整理し、新たな視点や洞察を得ることができます。これは自己成長に大いに寄与します。
これらの効果は、コーチングが効果的に行われるための基盤となります。
3.コーチング傾聴の3つのレベルとその理解
(1)内的傾聴
内的傾聴とは、言葉だけでなく、相手が何を感じ、考えているのかを深く理解しようとする傾聴の一形態です。これは、コーチングにおいて重要なスキルであり、コーチがクライアントの言葉の背後にある意味を理解するための基盤となります。
具体的な行動としては、自分の意見や解釈を一旦置き、相手の視点に立って理解しようと努めます。また、自分の内面に起こる反応や感情にも意識を向け、それがクライアントの感情や状態を理解するヒントになることもあります。
対話中、相手の表現や非言語的な情報に意識的に注目し、その背後にある思考や感情、意図を探ることが重要です。それにより、クライアントが真に伝えたいことを引き出すことができます。
(2)集中的傾聴
集中的傾聴とは、コーチがクライアントの言葉に全集中することを指します。これは単に会話を聞くだけでなく、その背景や真意、感情までを理解しようとする深い聞き方です。
具体的な行動としては、クライアントが話す時にはコーチは黙り、話を遮らずに最後まで聞きます。その上で、相手の言葉を理解し、深堀りの質問をすることでさらに詳細を引き出します。クライアントの思考や感情をより深く理解することで、コーチングの効果を最大化することが可能です。
また、集中的傾聴の際は、クライアントの言葉の内容だけでなく、言葉の選び方や話し方、非言語的な情報(例えば表情や体調)も注意深く観察します。これらの情報からも、クライアントの心情や潜在的なニーズを読み取ることができます。
(3)全方位的傾聴
全方位的傾聴とは、相手の言葉だけでなく、その背後にある思考・感情、さらには非言語的な表現までをも捉える傾聴法です。このレベルでは、相手の「全体性」を把握することが求められます。
以下に全方位的傾聴の具体的な要素を3つ表に示しましょう。
要素 | 説明 |
---|---|
言葉 | 相手が何を言っているかを理解する |
思考・感情 | 言葉の背後にある思考や感情を読み取る |
非言語的表現 | 身体の動きや表情、声のトーンなどから情報を得る |
全方位的傾聴を実践することで、相手の本当の想いや意図を深く理解し、より良いコーチングが可能となります。
4.実践!コーチングの傾聴技術5つ
(1)沈黙する技術
傾聴の中でも、特に「沈黙する技術」はコーチングの重要な要素です。意外に思われるかもしれませんが、沈黙は相手の話を深く理解するための有効な道具なのです。
まず、相手が話している間は何も言わずにただ聞くこと。これは相手が自由に思考を展開できるスペースを確保するためです。その際、自分の意見や感想を挟むことなく、ただ黙って耳を傾けることが求められます。
次に、話し終えた後も一定時間黙って待つこと。これは相手が自己の思考を整理し、更なる洞察を得る機会を与えるためです。この時、余計なフォローや質問をせず、相手が新たな視点やアイデアを見つけるのを静かに待ちましょう。
以下の表に、この技術を用いる際のポイントと注意点をまとめました。
ポイント | 注意点 |
---|---|
相手が話している間は静聴 | 自分の意見や感想を挟まないこと |
話し終えた後も一定時間待つ | 余計なフォローや質問をせず、相手が新視点を見つけるのを待つこと |
以上、沈黙する技術について解説しました。この技術は、コーチとコーチィーの信頼関係を築く基礎となります。
(2)うなずき&あいづちの技術
コーチングにおいて、クライアントの話を適切に理解し、受け止めるためには、「うなずき」や「あいづち」が非常に有効です。クライアントが自己開示を行う際、コーチの適時的なうなずきは、「あなたの話は理解されている」という安心感を与えます。
また、「あいづち」は会話の流れをスムーズにし、相手が自分の考えを伝えやすい環境を作り出します。ただし、あいづちの頻度やタイミングは重要で、適度な間隔を保つことが求められます。
【実践例】 例えば、クライアントが話しているときに、「なるほど」「そうですか」などのあいづちを挟み、また頷くことで、自分がクライアントの話を理解していることを示します。これにより、クライアントは自分の思いや考えをより自由に話すことができます。
(3)言葉以外の情報に意識を向ける技術
コーチングでの傾聴において、言葉以外の情報に意識を向ける技術は非常に重要です。コミュニケーションの大部分は、実は非言語的な要素で成り立っています。
表1. 非言語的な情報とその例
非言語的な情報 | 例 |
---|---|
表情 | 笑顔、しかめっ面、驚きの表情など |
姿勢 | 肩を落とす、胸を張る、足を組むなど |
声のトーン | 高い声、低い声、速い話し方、ゆっくりとした話し方など |
上記のような非言語的な情報を捉えることで、相手が何を感じているのか、何を本当に伝えたいのかを理解する手がかりになります。これにより相手の意志を尊重し、より深い理解へとつながるでしょう。
(4)感情のおうむ返し技術
感情のおうむ返し技術は、コーチングの傾聴において重要な一部です。これは、話し手が表現した感情を、話を聞いている方がそのまま反映する技術です。
例えば、「今日は本当に疲れてしまって…」と相手が伝えたとき、それを「とても疲れているんですね」と言葉に出すことで、相手の感情を正確に受け取り、理解していることを示します。
また、ネガティブな感情に対しても、「辛いですね」や「大変な状況にいるんですね」といった形で感情を反映させます。この技術により、相手の感情を肯定し、共感の意を示すことが可能となります。
感情のおうむ返しは、相手が持つ感情を尊重し、理解を深める効果があるだけでなく、信頼関係の構築にも寄与します。このテクニックを使うことで、より効果的なコーチングが可能となります。
(5)要約する技術
要約する技術とは、相手が話した内容を短くまとめ、自分の理解を確認する方法です。これは、コーチングの傾聴技術の一部として非常に重要です。
要約する際は以下の3つのステップを踏みます。
【表1:要約する技術のステップ】
ステップ | 内容 |
---|---|
① | 相手が話し終えたら、その要点を短くまとめます。 |
② | 要約した内容を相手に伝え、自分の理解が正しいかを確認します。 |
③ | 誤解があった場合は、再度相手から話を聞き、理解を深めます。 |
この技術を用いることで、相手が話した内容を的確に理解し、相手の話に対する理解度を深めることが可能になります。また、要約を行うことで相手に自分がしっかりと聞いていることを示すことができ、相手の安心感や信頼感を得るためにも有効な手法です。
5.傾聴力を上げるための具体的な方法とアドバイス
(1)目・顔・身体を向ける努力
傾聴力を高めるためには、「目・顔・身体を向ける努力」が求められます。これは相手への尊重の表現であると同時に、相手からの情報をしっかりと捉えるための重要な技術です。
まずは、目線を相手に合わせることが大切です。相手の目を見ることで、相手が何を感じているのか、何を伝えたいのかをより深く理解する一助となります。
次に、顔と身体の向きも重要です。顔や身体を相手に向けることで、相手に対する関心や理解を示すことができます。これにより、相手も自分の言葉が理解され、受け入れられていると感じることでしょう。
これらの努力は、傾聴の基礎となるもの。日々のコーチングにおいて意識的に取り組んでみてください。
(2)相手の感情をキャッチする工夫
コーチングにおいて、相手の感情をキャッチすることは極めて大切です。それは、コミュニケーションの深いレベルで絆を形成し、クライアントの本質的な問題や欲求を理解するための鍵となるからです。
まずは、相手の言葉の背後にある感情を読み取ることが重要です。選んだ言葉、話し方の速さ、声の調子、言葉に乗せられた感情などを注意深く観察してみましょう。具体的な例で見ると以下のようになります。
言葉 | 感情 |
---|---|
「私、もうだめだ…」 | 絶望 |
「すごくうれしい!」 | 喜び |
「何もうまくいかない」 | 悲しみ |
さらに、ボディランゲージも感情を読み取る重要な手がかりです。表情、ジェスチャー、姿勢などからも感情を推測できます。これらの観察を通じて、クライアントが何を感じ、どうしたいのかを理解しましょう。
(3)キーワードの繰り返しによる理解
傾聴力を上げるためには、コーチング対話中に出てきたキーワードを意識し、それを繰り返し利用することが有効です。キーワードとは、相手が話す中で強調したり、何度も繰り返して使用した単語やフレーズのことです。
キーワードを繰り返し使うことで、以下の利点が生まれます。
1.【相手の理解を深める】 相手が自身で使った言葉を引用することで、相手の思考や感情を理解しやすくなります。また、相手も自分が理解されていると感じます。
2.【対話の深化】 キーワードを心に留めておくことで、それを基に新たな質問を引き出すことができ、対話が深化します。
この方法を実践するには、適切なタイミングでキーワードを引用・繰り返し使うことがポイントです。これにより、コーチングの傾聴力が向上し、更なる効果を引き出すことが期待されます。
6.まとめと次のステップに向けて
本記事では、コーチングの重要な要素である「傾聴」について具体的な技術とその効果を学びました。まず、傾聴がコーチングにおいてどのように重要な役割を果たすのかを理解し、次に傾聴の3つのレベルとそれぞれの特性を把握しました。さらに、具体的な傾聴技術とその実践方法を5つ紹介し、最後に傾聴力を上げるための具体的な方法とアドバイスを提供しました。
次のステップとしては、まずは身近な人を対象にして、記述した傾聴のテクニックを実践しましょう。それから自分自身の反応や相手の反応を観察してみてください。そして、何がうまくいったか、何が改善すべきかを見つけることで、より効果的なコーチングと傾聴の技術を身につけていくことができます。
また、日々のコミュニケーションでも傾聴の技術は有用です。どんな場面でも心に留めて活用してみてください。