1.はじめに:コーチングで使用する質問とその効果
コーチングとは、相手の可能性を引き出すためのコミュニケーション手法の一つです。その中でも、「質問」はコーチングにおける重要なツールとなります。質問は、クライアント自身が答えを見つけ出すことを助け、自己理解を深めるための道筋を作ります。
しかし、全ての質問がコーチング質問というわけではありません。一般的な質問は回答を導くものであり、情報を得るためのものです。一方、コーチング質問はクライアントの思考を刺激し、新たな視点や解決策を見つけるための手助けをするものです。
コーチング質問の効果は、クライアントの自己認識の深化、自己肯定感の向上、行動変容など多岐にわたります。本記事では、成功者が実践する主要なコーチング質問とその効果を詳しくご紹介していきます。
2.コーチング質問と一般的な質問の違い
(1)コーチング質問の定義と目的
コーチング質問とは、コーチがクライアントに対して、自己理解を深め、自己啓発を図るために投げかける質問のことです。これは単に情報を集めるための質問ではなく、クライアント自身が自己の課題を発見し、解決策を自ら考え出すことを助けるものです。
コーチング質問の主な目的は二つあります。一つ目は、クライアントの視点や認識を広げること。二つ目は、クライアントの行動や思考を変えるきっかけを作り出すことです。
目的 | 効果 |
---|---|
視点・認識の拡張 | 新たな洞察や解釈へと導く |
行動・思考の変容 | 進歩・発展への道筋を作る |
ポイントは、質問自体が解答ではなく、会話を通じてクライアント自身が答えを見つける手段であることです。
(2)一般的な質問との違い
コーチング質問と一般的な質問との間には、目的と効果に明確な違いがあります。
一般的な質問は、情報を取得することが主な目的です。たとえば、「何時に会議が始まりますか?」という質問は、具体的な情報を得るために使われます。
一方、コーチング質問の主な目的は、相手の思考を深め、自己理解を促進し、行動を引き出すことです。たとえば、「その目標を達成するために何が必要だと思いますか?」という質問は、相手自身に解答を見つける機会を提供します。
以下の表は両者の違いを明確に示しています。
コーチング質問 | 一般的な質問 | |
---|---|---|
目的 | 思考を深める | 情報を得る |
効果 | 自己理解と行動を促進 | 情報提供 |
これらの差異に気を付けることで、より効果的なコーチングが可能となります。
3.成功者が実践する主要なコーチング質問とその効果
(1)アイスブレイクの質問例とその効果
コーチングの初めには、コーチとコーチィー間の関係をスムーズにし、お互いの理解を深めるためのアイスブレイクの質問が有効です。具体的には、「最近何か新しいことを始めましたか?」や「今日一番印象に残った出来事は何ですか?」といった質問が該当します。
これらの質問の効果は大きく2つあります。一つ目は、コーチィーが自己開示することで心理的な安全性を感じ、コーチングに対する抵抗感を減らすことです。二つ目は、コーチがコーチィーの生活や価値観を理解することで、より適切な質問を導き出すきっかけをつくることです。
ポイントは、質問が「あなた」中心であること、そしてその回答からコーチィーの現状や視点を引き出すことに重点を置くことです。これにより、効果的なコーチングが実現されます。
(2)目標設定の質問例とその効果
目標設定はコーチングの基礎であり、適切な質問はコーチとクライアントの目標共有に不可欠です。具体的な質問例としては、「あなたが達成したい最終的なゴールは何ですか?」、「そのゴールを達成するためのステップは何だと考えていますか?」、「それを達成するために必要なリソースは何ですか?」などがあります。
質問例 | 効果 |
---|---|
あなたが達成したい最終的なゴールは何ですか? | クライアントの思考を具現化し、明確な目標設定につながる |
そのゴールを達成するためのステップは何だと考えていますか? | クライアントが主体的に計画を立てることで、自己効力感を高める |
それを達成するために必要なリソースは何ですか? | 現状のリソースを把握し、足りない部分を補うための戦略を立てる |
これらの質問は、クライアントが自身の目標を明確にし、それに向けた行動計画を立てることに助けとなります。その結果、クライアントの自己認識を深めるとともに、具体的な行動につながる可能性が高まります。
(3)現状把握の質問例とその効果
現状把握の質問は、クライアントの現在の状況や問題を明確に理解するためのものです。具体的な質問例としては、「現在、何に一番困っていますか?」、「それがどのような問題を引き起こしていますか?」などが挙げられます。
この種の質問が効果的な理由は、クライアント自身が自分の状況を言葉にすることで、問題の核心を自覚しやすくなるからです。また、クライアントの答えからコーチとしても、どのようなサポートが必要かを洗い出す重要な手がかりを得られます。
表1:現状把握の質問例とその効果
質問例 | 効果 |
---|---|
現在、何に一番困っていますか? | クライアントが問題を自覚しやすくなる |
それがどのような問題を引き起こしていますか? | コーチが対策を立てやすくなる |
現状把握の質問は問題解決の第一歩とも言えます。このステップを丁寧に行うことで、クライアントは自身の課題をより明確に理解することが可能となります。
(4)行動設定の質問例とその効果
コーチングではゴール設定後、具体的な行動計画を立てるために使われる質問が「行動設定の質問」です。例えば、「そのゴールを達成するために、何が必要だと思いますか?」や、「それを達成するために、どのような行動をとるべきだと感じますか?」などがあります。これらの質問により、クライアント自身が具体的な行動計画を考え、自己決定性を高めることができます。
また、その効果として、クライアントが自分自身の考えを明確にし、自己認識を深める機会を提供します。更に、行動計画の実行に対するクライアントの意欲と責任感を高める役割も果たします。これにより、ゴール達成へ向けた具体的な行動が促され、コーチングの効果が高まると考えられます。
4.コーチングスキル質問:コーチングにおいて意識すべき4種類の質問
(1)オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン:定義と使用時の効果
オープンクエスチョンとは、具体的な答えではなく、受け手の意見や感情、考え方を引き出すための質問です。例えば「どう思いますか?」や「何が必要だと思いますか?」などがこれに該当します。対話相手の視点や思考を深めることが可能で、コーチングではよく用いられます。
一方、クローズドクエスチョンは、はい/いいえ、選択肢からの選択など、限定的な答えしか出せない質問です。例えば「準備はできましたか?」や「どちらが良いと思いますか?」などが該当します。確認作業や具体的な意志決定時に活用されます。
質問タイプ | 定義 | 使用時の効果 |
---|---|---|
オープンクエスチョン | 受け手の意見・感情を引き出す質問 | 対話相手の視点・思考を深める |
クローズドクエスチョン | 限定的な答えしか出せない質問 | 確認作業・意志決定時に活用 |
これらを適切に使い分けることで、効果的なコーチングが可能となります。
(2)掘り下げる質問と拡げる質問:定義と使用時の効果
掘り下げる質問と拡げる質問は、コーチングの場において効果的な質問法の1つです。
「掘り下げる質問」は、相手の考えや感情を深く理解するために用いられます。具体的な事例や情報を引き出し、詳細を明らかにすることで、相手自身が自分の立場をより深く理解することに繋がります。例えば、「それは具体的にどのような状況で感じましたか?」といった質問があります。
一方で、「拡げる質問」は、相手の視野を広げ、新たな可能性を探求するために使われます。これにより、固定化した思考パターンを打破し、新たな視点やアイデアを発見するきっかけを提供します。例えば、「それ以外にどのような対策が考えられますか?」といった質問が具体的な例です。
以下にその定義と効果を表形式でまとめてみました。
質問法 | 定義 | 効果 |
---|---|---|
掘り下げる質問 | 相手の考えや感情を深く理解するための質問 | 自己理解を深める |
拡げる質問 | 新たな可能性を探求するための質問 | 視野を広げ、新しい視点やアイデアを発見する |
どちらの質問も、コーチとコーチィーの信頼関係を深め、より有益な結果を導くために重要なツールとなります。
(3)未来質問と過去質問:定義と使用時の効果
未来質問とは、コーチングの中で相手の未来の行動や視点を刺激するために用いられる質問法です。「あなたが目標を達成した時、どんな感じがしますか?」や「その目標を達成するためには、何が必要ですか?」など、具体的な行動や感情を引き出すことを目指します。これに対して、過去質問は過去の経験や行動を基に現在の課題を理解するために使用します。「過去に似たような状況で成功した経験はありますか?」や「その時はどのように対処しましたか?」といった質問が該当します。
質問の種類 | 定義 | 使用時の効果 |
---|---|---|
未来質問 | 相手の未来の行動や視点を刺激する質問 | 具体的な行動計画の策定やモチベーション向上 |
過去質問 | 過去の経験や行動を基に現在の課題を理解する質問 | 問題解決のヒントを見つける、自己理解を深める |
このように、未来質問と過去質問を適切に組み合わせて用いることで、コーチングの効果を最大化することが期待できます。
(4)肯定質問と否定質問:定義と使用時の効果
コーチングでは、肯定質問と否定質問があります。
肯定質問とは、相手の能力や可能性を引き出すための質問です。「何ができると思いますか?」や「どの部分が自信がありますか?」などが例として挙げられます。これらの質問は、自己効力感を高め、前向きな行動を刺激します。
一方、否定質問とは、相手の課題や困難を明らかにするための質問です。「何が難しいと感じますか?」や「どの部分が改善が必要だと思いますか?」などが該当します。否定質問は、問題解決のための課題認識を深めます。
ただし、否定質問はデリケートな扱いが必要で、あくまで適切なタイミングとバランスで使用することが重要です。
質問の種類 | 定義と使用時の効果 |
---|---|
肯定質問 | 相手の能力や可能性を引き出し、自己効力感を高め、前向きな行動を刺激 |
否定質問 | 相手の課題や困難を明らかにし、問題解決のための課題認識を深める |
5.コーチング質問力を高めるためのヒント
(1)オープンクエスチョンを意識的に使う方法
コーチングでは、相手の思考を深め、自己理解を促進するために、オープンクエスチョンの使用が推奨されています。オープンクエスチョンとは、一言で答えられない、相手の意見や感情、思考を引き出すための質問方法です。
この使用方法のポイントは3つです。
1.「何」や「どう」から始まる質問を使う 明確な答えがなく、話を広げることができます。例えば、「どう感じましたか?」や「何を思いましたか?」などです。
2.「なぜ」から始まる質問は避ける 「なぜ」から始まる質問は、相手を防御的にさせてしまう可能性があるためです。
3.質問に対する自分の解答を想像しない オープンクエスチョンは相手の思考を引き出すためのものです。自分が答えを想像してしまうと、その方向に質問が偏る可能性があるため注意が必要です。
これらのポイントを踏まえ、相手の話を引き出し、思考を深めることで、コーチングの効果を最大限に引き出すことができます。
(2)ありたい姿を尋ねる方法
ありたい姿を尋ねることは、相手の思考をポジティブな方向に導き、具体的な行動へと結びつけるための重要な手段です。具体的には以下のように質問を行います。
■表1. ありたい姿を尋ねる質問例
シーン | 質問例 |
---|---|
目標設定 | 「あなたが理想とする結果は何ですか?」 |
問題解決 | 「この問題が解決したら、どのような状況が理想ですか?」 |
これらの質問により、相手に自己分析させ、自身で解答を見つけるよう導くことができます。コーチングでは、答えを与えるのではなく、あくまで自己理解を促進するための手続きとなります。
(3)質問よりも聴くことに徹する理由と方法
コーチングでは、質問することも大切ですが、それ以上に相手の話をじっくりと聴くことが重要です。
理由は、相手自身が自己理解を深め、解決策を自ら見つけ出すきっかけを作るためです。また、コーチとしては相手の思考や感情を理解し、適切な質問を設定するためにも、聴くことが求められます。
では、どのようにして聴くことに徹するか、具体的な方法を3つご紹介します。
- 無言を恐れずに、相手が話し終えるのを待つ:これにより、相手は深いレベルで考え、本当に伝えたいことを話す機会が増えます。
- 目の前の話題に集中する:これにより、相手の本音や心情に気づきやすくなります。
- フィードバックは短く、質問は最小限に:これにより、相手が自分の考えを深めるスペースを確保します。
つまり、コーチング質問力を高めるためには、「聴く=理解する」ことが鍵となります。
6.まとめ:コーチング質問の効果的な使用法とその効果
コーチングの質問は、対話者の思考を深め、行動を促す強力なツールです。それらは具体的な目標設定、現状把握、行動設定に役立つと共に、アイスブレイクなどのコミュニケーションの円滑化に貢献します。
オープンクエスチョンや肯定の質問は、相手の解答を引き出し、新たな視点を提供します。また、掘り下げる質問や未来志向の質問は、具体的な行動計画作りに役立ちます。
これらの質問はただし難しくありませんが、効果的に使うためには訓練と経験が必要です。意識的にオープンクエスチョンを使い、ますます聴くことを重視し、相手の思考を深める質問をすることがコーチングの質問力を高めるための行動指針です。
あなたのコーチングスキルが、これらの質問の効果的な使用を通じて、更なる高みに至ることを願っています。