1.はじめに
現在、我々が日常的に行っている思考や判断には、様々な「バイアス」が働いています。その一つである「セルフ・サービング・バイアス」について、皆さんはご存知でしょうか。セルフ・サービング・バイアスは、私たちの自尊心を保つための心理的なメカニズムとして、無意識のうちに働いています。
この記事では、そんなセルフ・サービング・バイアスについて、その定義や具体例、さらにはその心理的背景と対策方法まで、基礎からわかりやすく解説します。心理学の知識を深めたり、自己理解を深める手助けとなることでしょう。
さあ、一緒に学んでいきましょう。
2.セルフ・サービング・バイアスとは
(1)定義と概要
セルフ・サービング・バイアスとは、心理学の用語で、自分の成功体験は自分の能力や努力によるものと解釈し、失敗体験は外部の要因によるものと解釈するという人間の思考傾向を指します。英語で “Self-serving Bias”と表現され、直訳すると「自己奉仕的な偏見」を意味します。
以下は、このバイアスの特徴を表にしました。
特徴 | 説明 |
---|---|
成功体験 | 自身の能力や努力に帰せられる |
失敗体験 | 外部環境や他者の影響に帰せられる |
この思考パターンは、自尊心を守るための心理的メカニズムとも言えます。後述する具体例を通じて、より深く理解していきましょう。
(2)心理学での位置づけ
セルフ・サービング・バイアスは、心理学的には認知的バイアス(偏見)の一種と位置づけられます。認知的バイアスとは、人間が情報を処理する際に無意識的に傾向を持つ、様々な思考の歪みのことを指します。
表1.認知的バイアスの主な種類
種類 | 説明 |
---|---|
確証バイアス | 自分の考えを支持する情報だけを選んでしまう傾向 |
フレーミング効果 | 問題の表現や枠組みによって判断が変わる傾向 |
セルフ・サービング・バイアス | 自分に有利な情報は自分の能力によるもの、不利な情報は外部要因によるものと解釈する傾向 |
上記の表からもわかるように、セルフ・サービング・バイアスは自己評価を保護するための防御メカニズムの一種であり、人間の思考パターンに深く根ざしています。
3.セルフ・サービング・バイアスの具体例
(1)日常生活での事例
日常生活でのセルフ・サービング・バイアスの具体例として、以下のような場面があります。
- テストの結果に対する反応:自分の勉強が実を結び、高得点を取れたときには「自分の努力の結果だ」と考えますが、低得点だった時には「問題が難しかった」「先生が厳しかった」など、自分以外の要因を挙げる傾向がみられます。
- スポーツの成績について:スポーツで良いパフォーマンスが出せた際には、自分の技術やコンディションが良かったからだと解釈します。しかし、結果が出なかった時には、気候や審判の判定など自分のコントロール外の要因を挙げることがよくあります。
このように、成功した時は自己に帰属し、失敗時は他人や状況に帰属する傾向がセルフ・サービング・バイアスです。
(2)ビジネスや学習における事例
ビジネスの場でよく見られるセルフ・サービング・バイアスの例として、プロジェクトの成功時には自身の能力や努力を強調し、失敗時には市場環境や他者のミスなど外部要因を挙げるケースがあります。
図1. ビジネスにおけるセルフ・サービング・バイアスの具体例
成果 | セルフ・サービング・バイアスの傾向 |
---|---|
成功 | 自身の能力や努力を強調 |
失敗 | 市場環境や他者のミスなど外部要因を挙げる |
また、学習においても同様のバイアスが見られます。テストで良い結果が出た時、それは自己の努力や知識の結果と捉えますが、悪い結果の際には先生の教え方や問題の難易度を問題視することが多いのです。
このように、自分にとって都合の良い形で現実を解釈し、自尊心を保つための心理メカニズムが、セルフ・サービング・バイアスとなります。
4.セルフ・サービング・バイアスの心理的背景
(1)成功体験に固執する理由
セルフ・サービング・バイアスは、一部の成功体験に固執する傾向があります。これには、主に2つの理由が考えられます。
まず第一に、成功体験は自己効力感を増大させる役割を果たします。自己効力感とは、「自分が自分の生活をコントロールする能力がある」という信念のことです。成功体験を繰り返すことで、自己効力感が高まり、自分自身の能力に自信を持つようになります。
また第二に、成功体験はポジティブな感情を生み出します。この感情は、他者の評価だけでなく自己評価にも影響を及ぼし、さらなる成功体験を引き寄せるインセンティブとなります。これらの理由から、私たちは成功体験に積極的に固執する傾向があります。
(2)失敗を外部要因に帰する理由
セルフ・サービング・バイアスが働く大きな理由として、「失敗を外部要因に帰す」傾向があります。これは、自己のエゴを保護するための心理的防衛機制の一つです。
表1 バイアスの例
成果 | 原因 |
---|---|
成功 | 自己 |
失敗 | 外部 |
たとえば、テストの結果が良くなかった場合、「自分が勉強不足だったから」と自己責任にするのではなく、「教師が厳しすぎる」「問題が複雑すぎる」など、外部要因を原因にすることで、自己のエゴを傷つけることを避けようとします。このような思考パターンは、自己評価を保つために働く自己保存のメカニズムと言えます。
(3)自尊心保持のための心理的なメカニズム
セルフ・サービング・バイアスは、自尊心を保持するための心理的なメカニズムともいえます。人間は誰しも、自己の価値を維持するために、成功体験を自らの能力や努力に帰し、失敗体験は外部の要因に帰する傾向があります。
この心理的なメカニズムは、「自己強化効果」とも呼ばれます。以下の表をご覧ください。
成功 | 失敗 |
---|---|
自己の能力や努力に帰す | 外部の要因に帰す |
このように、我々は自己評価を高める情報は受け入れやすく、低下させる情報は避ける傾向にあります。これにより自尊心は保たれ、ストレスや不安から自己を保護しています。しかし、これが行き過ぎると自己認識が現実から乖離してしまう恐れもあります。
5.セルフ・サービング・バイアスから抜け出すための対策
(1)自己反省と自己理解の重要性
セルフ・サービング・バイアスから抜け出す最も効果的な方法の一つは、自己反省と自己理解の重要性を認識し、それを実践することです。自己反省は、自分自身の行動や思考を客観的に見つめ直すプロセスを指します。自己理解は、自らの長所や短所を知り、それらをどのように活用あるいは改善するかを理解することです。これら二つは密接に関連しており、一方が欠けると効果は半減します。
具体的には、以下の表のような行動をとることが有効です。
自己反省 | 自己理解 |
---|---|
一日の終わりに行動を振り返る | 自分の強み、弱みをリストアップする |
客観的なフィードバックを求める | 自分がどのように認識されているか確認する |
このような行動を通じて、自分自身を深く理解し、セルフ・サービング・バイアスの影響を最小限に抑えることが可能となります。
(2)俯瞰的視点を持つことの効果
セルフ・サービング・バイアスを改善するための有効な手段の一つとして、俯瞰的視点を持つことが挙げられます。これは、自身を第三者の視点から見るという意味です。日頃から自己の行動や思考を自己中心的に見るのではなく、まるで他人が見ているかのような視点で見ることで、自己の行動や思考が公平に評価できるようになります。
例えば、「自分の成功は自分の努力の結果だ」と考えがちな人は、自分以外の要素、例えば環境や他人の支援も考慮することができます。「自分の失敗は他人のせいだ」と考えがちな人も、自身の責任を省みるきっかけになります。
このように、俯瞰的視点を持つことで、セルフ・サービング・バイアスを乗り越え、より公正な自己評価が可能になるのです。
(3)他者との比較から自己評価へのシフト
セルフ・サービング・バイアスから抜け出すための一つの対策として、「他者との比較」から「自己評価」へのシフトが有効です。これは、他人と自分を比較することで心理的なストレスを生む代わりに、自己の行動や結果に対する評価を客観的に行うことを意味します。
例えば、試験の結果を他人と比較するのではなく、自分がどれほど努力したか、どのくらい理解できていたかを自己評価してみましょう。これにより、自己理解が深まり、自尊心や自己効力感も保てるようになります。
以下に示す表は、比較と自己評価の違いを示しています。
比較 | 自己評価 | |
---|---|---|
対象 | 他人 | 自己 |
評価基準 | 他人の行動・結果 | 自己の努力・理解 |
他者との比較から自己評価へのシフトは、セルフ・サービング・バイアスを克服する手助けとなるはずです。
6.まとめ
本記事では、セルフ・サービング・バイアスとは何か、その具体的な事例や心理的背景、対策について学びました。このバイアスは、自尊心を保持するための防衛メカニズムであり、人間の認知バイアスの一つです。
セルフ・サービング・バイアスは、成功体験を自己の能力に帰し、失敗を外部要因に帰す傾向を指します。しかし、この思考パターンは自己理解を阻害し、成長を妨げる可能性があります。
対策としては、自己反省と自己理解の重要性が強調されました。また、俯瞰的視点を持つことで、自己と他者との比較から自己評価にシフトすることが推奨されました。
理解と対策こそが、このバイアスから抜け出し、自己成長へとつながる第一歩となります。