行為者－観察者バイアスとは？日常生活での具体例から深掘り解説

February 23, 2024

1. はじめに

行為者-観察者バイアスの簡易的な解説

行為者－観察者バイアスとは、状況による影響と個人の性格による影響のどちらが行動の原因となるかの解釈における偏見です。具体的には、自分自身の行動については状況要因を強調し、他人の行動については性格要因を強調するというバイアスが現れます。

例えば、自分がプレゼンテーションで失敗した場合、状況要因（「準備時間が不足していた」「照明が眩しかった」など）を理由に挙げる傾向があります。一方、同僚がプレゼンテーションで失敗したなら、性格要因（「その人は基本的に話すのが下手だから」など）をあげることが多いです。

このように、自分と他人の行動の解釈に違いが生じることが「行為者－観察者バイアス」です。この理解は、コミュニケーションにおける誤解を防ぎ、日々の生活や職場での円滑な人間関係を築くために重要となってきます。

2. 行為者－観察者バイアスとは？

行為者－観察者バイアスの定義

行為者－観察者バイアスとは、心理学の領域で語られる認知の偏りの一種で、自分自身の行動については状況的な要因を強調し、他人の行動については性格や能力など内部的な要因を強調する傾向を指します。

例えば、自分が試験で失敗した時には、「問題が難しかった」「寝不足だった」などと、状況に原因を求めることが多いです。しかし、他人が試験で失敗した時には、「勉強不足だったのではないか」「頭が良くないのかも」などと、その人の性格や能力等に原因を求めることが多く見受けられます。

このような自分と他人とで評価の基準が異なる現象を、「行為者－観察者バイアス」と言います。適切なコミュニケーションには、このバイアスを理解し、意識することが重要なポイントとなります。

行為者－観察者バイアスが生じる心理的背景

行為者－観察者バイアスが生じる心理的背景は、我々が状況を認識・解釈する際の視点の違いによるものです。行為者である自分自身の行動については、自身の環境や状況を十分に把握しているため、行動の原因を外部的要因、つまり特定の状況や環境の影響によるものと考える傾向があります。

一方で、他人の行動について観察者となると、その人がどのような状況下にあったか、具体的な背景が見えづらいため、行動の原因をその人の性格や能力、内部的要因に帰結する傾向があるのです。この視点の違いから行為者－観察者バイアスが生じ、誤った認識や解釈を生み出す可能性があります。

3. 行為者－観察者バイアスの具体例

職場での例

職場における行為者-観察者バイアスの典型的な例を見てみましょう。

・ケース1：プロジェクト遅延あなたがプロジェクトリーダーで、プロジェクトが遅延した場合。あなた（行為者）は「客先からの要求変更や他のメンバーの遅れ」など、外部要因を主な遅延原因として挙げるかもしれません。しかし、他のチームメンバー（観察者）は「リーダーのスケジュール管理やコミュニケーション不足」など、あなたの内部要因を主な遅延原因と捉える可能性があります。

・ケース2：ミスの発生同僚Aが重大なミスを犯した場合、A本人（行為者）は「情報不足や設備の老朽化」などの外部要因をミスの主な原因と考えるでしょう。しかし、他の同僚（観察者）は「Aの能力不足や注意力の欠如」等といったAの内部要因をミスの原因と見なす可能性が高いです。

これらは行為者-観察者バイアスが働く典型的な例です。

学校での例

学校で行為者－観察者バイアスが発生する一例として、テストの結果について考えてみましょう。

生徒Aがテストで悪い結果を出した場合、自身では「前日に病気であったため勉強時間が取れなかった」と具体的な状況や理由を考えます。これが行為者視点です。

一方、クラスメイトや教師が生徒Aの結果を知った時、彼らは「生徒Aは勉強しなかっただけだろう」と一般的、抽象的な特性（この場合は勉強しない）を原因として捉える傾向にあります。これが観察者視点です。

これは行為者－観察者バイアスが生じている典型的な例と言えます。自身の行動については具体的な状況を考慮に入れる一方で、他人の行動については抽象的な特性を原因として考える傾向があります。

家庭での例

家庭でも行為者－観察者バイアスはよく見られます。例えば、夫が休日に家事を手伝った際、その行動を評価する視点が異なります。

行為者（夫）は自身の行動を状況によるものと捉え「休日だから時間があったから手伝った」などと考えます。一方、観察者（妻）は夫の性格によるものと解釈し、「いつもは手伝わないけど今日は珍しく手伝った。きっと彼は基本的には手伝わない人なんだ」と考える場合があります。

このように、同じ状況でも行為者と観察者で解釈が異なることを行為者－観察者バイアスと言います。このバイアスにより、互いの誤解やコミュニケーションの障害が生じる可能性があります。

4. 行為者－観察者バイアスを生じさせる原因

情報量の違い

情報量の違いは、行為者－観察者バイアスが生じる大きな要因の一つです。具体的には、同じ行動でも、行為者自身はその行動に至るまでの過程や背景を全て知っていますが、観察者は見える結果しか知らないことが多いのです。

例えば、あるプロジェクトが失敗したとき、プロジェクトメンバー（行為者）は、必死に努力した過程や、予見できなかった問題が発生したこと等を知っています。しかし、外部の人（観察者）は、結果だけを見て、「プロジェクトメンバーの能力が足りないから失敗した」と判断してしまうことがあります。

このように、情報量の違いによって生じる認識の差が、行為者－観察者バイアスを引き起こすのです。

視点の違い

行為者－観察者バイアスの生じる原因の一つに、「視点の違い」があります。具体的には、自分が行為者の時と他人が行為者で自分が観察者である時で、物事を捉える視点が異なるということです。

表1で詳しく見てみましょう。

【表1：視点の違い】

	行為者	観察者
視点	自分の行動の背景や状況を理解	行為者の行動のみを観察

行為者自身は、自分の行動をとる背景や状況を理解しています。しかし、他人が観察者の立場で見ているとき、観察者は行為者の行動だけを見て評価します。つまり、観察者は行為者が抱えている具体的な背景や状況を完全には理解できないのです。

この視点の違いが生じると、行為者と観察者間で情報の非対称性が生まれ、行為者－観察者バイアスが発生する可能性が高まります。対話やコミュニケーションを通じて視点の違いを埋める努力が求められます。

5. 行為者－観察者バイアスのデメリットとその対策

デメリットの概要

行為者－観察者バイアスは、対人関係において様々な問題を生じさせます。以下に主なデメリットを示します。

コミュニケーションの障壁：行為者と観察者の間で認識差が生じ、誤解やトラブルの原因となります。具体的には、行為者が自身の行動を環境要因によるものと捉える一方で、観察者は行為者の性格や能力の問題と受け取ることがあります。
フィードバックの非効率：観察者が行為者の行動を人格や能力の問題と結びつけて評価してしまうと、行為者は自己改善の手がかりを得にくくなります。
間違った判断：観察者が行為者の行動を不適切に解釈すると、人事評価や対人関係の形成に影響します。

以上のデメリットを理解し、適切な対策を講じることで、行為者－観察者バイアスを克服することが可能です。

対策方法の提案

行為者－観察者バイアスを克服するためには、自身の判断がバイアスに影響されていないか常に意識することが大切です。特に、以下の3点を実践することを推奨します。

異なる視点から事象を捉える：自分だけの視点ではなく、他者の立場や視点から事象を考えてみることで、自身の思考の偏りを認識しやすくなります。
情報収集：事象についての情報を広範に集め、多角的に理解することでバイアスの影響を薄めることができます。
感情のコントロール：感情が先走らないようにし、冷静な判断を心掛けることも重要です。

これらを日常生活の中で意識し続けることが、行為者－観察者バイアスを克服する一歩となります。

6. 行為者－観察者バイアスを克服するための具体的な方法

バイアスを日ごろから意識する

行為者ー観察者バイアスは我々の判断に影響を与える無意識の力です。日常的にこの存在を認識し意識することが重要となります。

まずは、自分の判断や意見に行為者ー観察者バイアスが影響を与えていないか日ごろから注意深く見つめ直すことが求められます。例えば、一日の終わりにその日行った行動や他人から聞いた話、出来事を振り返り、それらに対して自分がどのような解釈をしたのか、どのような評価をしたのかを考えてみてください。

1. 日常での意識チェックリスト

自分の行動についてどのような評価をした？
他人の行動についてどのような評価をした？
その評価にバイアスが影響していなかったか？

このように日々自己反省を行うことで、無意識に働くバイアスに気づく機会が増え、適切な判断をするための第一歩になります。

時間をおいて考える

「時間をおいて考える」とは、行為者－観察者バイアスを克服するための有効な方法の一つです。

私たちは、出来事が起こった直後は情緒が高まり、事実よりも自己の視点や解釈に偏りがちになります。この状況では、行為者－観察者バイアスが発生しやすいと言えます。

そこで、時間をおいて冷静に事態を考え直すことで、情緒が落ち着き、よりオブジェクトに事実を捉えることが可能となります。これにより、自己中心的な視点から他者中心的な視点へとシフトし、行為者－観察者バイアスを克服することが期待できます。

具体的な行動としては、事件や出来事が起こった後、すぐに判断を下さず、一晩眠った後や、少なくとも数時間経ってから再考することをお勧めします。時間を置くことによって、自身の視点がより広がり、行為者－観察者バイアスを抑制することができるでしょう。

失敗の原因を本人に聞く

行為者－観察者バイアスを克服するための一つの方法として、「失敗の原因を本人に聞く」があります。この手法は、直接本人の視点を理解するための有効な方法です。

具体的な場面として、あるプロジェクトが予定通りに進行しなかった場合を考えてみましょう。観察者としては「彼のスキル不足が原因だ」と思い込む可能性があります。しかし、実際に本人に話を聞いてみると、「情報共有の不足」や「リソースの問題」等が原因だった可能性もあります。

このように、本人から直接話を聞くことで、観察者特有のバイアスを避け、より公正な視点を持つことができます。行為者の視点を直接理解することは、コミュニケーションの質を高め、組織全体の問題解決につながります。

相手のミスを自分の立場に置きかえてイメージする

行為者－観察者バイアスを克服するための有効な手法の一つに、「相手のミスを自分の立場に置きかえてイメージする」があります。

具体的には、例えば、同僚が業務でミスをしたとき、そのミスが「彼の能力不足から来るものだ」と考える前に、一度立ち止まり、その状況を自分が直面したらどうだろうかと思い描いてみましょう。それはプレッシャーの中での作業だったかもしれないし、または、情報が不足していたかもしれません。

このように自分自身をその状況に置き換えてみることで、他人の行動やミスに対する理解が深まり、行為者－観察者バイアスを軽減することができます。これは自分だけでなく、他人に対する公平な判断を下すための重要な視点と言えます。

7. まとめ

行為者－観察者バイアスの理解の重要性の再確認

行為者－観察者バイアスの存在を理解し、その影響を自覚することが極めて重要です。なぜなら、このバイアスは我々の判断や意思決定に大きな影響を与えるからです。

行為者－観察者バイアスの理解によって、我々は他人の行動の理由をより具体的に、そして公平に評価することが可能となります。例えば、他人のミスに対して、「彼は不注意だからミスをした」と決めつけるのではなく、「彼はワークロードが大きくてミスをしたかもしれない」という点にも目を向けることができます。

また、自己の行動についても、自らの行動の背景や状況を他者に説明し、理解してもらうことも容易になります。これにより、コミュニケーションがスムーズに行え、人間関係が円滑に進展します。

以下の表では、行為者－観察者バイアスの理解がもたらすメリットを簡潔にまとめました。

メリット	具体的な効果
公平な評価	他人の行動を客観的に見ることができる
コミュニケーションの円滑化	自己の行動を他人に理解してもらいやすくなる

行為者－観察者バイアスを理解することで、人間関係や職場環境の改善に大いに役立つことでしょう。