「身元のわかる犠牲者効果」の全貌！援助行動の背後にある心理メカニズム

February 21, 2024

1.はじめに

社会やビジネスの現場で、特定の個人や事例に対する共感が集まる現象はよく見られます。しかし、その背後には何があるのでしょうか。ここでは、「身元のわかる犠牲者効果」という概念を深掘りします。これは人々が具体的な個人や事例に対して強く共感し、行動を起こしやすいという心理的傾向を指します。

この記事では、その効果の定義から発生の背後にある理由、具体的な事例、さらにはマーケティングへの応用法に至るまで、身元のわかる犠牲者効果について包括的に解説します。それでは、共感の力がどのように私たちの行動や意志決定に影響を与えるのか、一緒に見ていきましょう。

2.「身元のわかる犠牲者効果」とは何か？

(1)身元のわかる犠牲者効果の定義

「身元のわかる犠牲者効果」とは、社会心理学における現象の一つで、具体的な個人や団体、コミュニティが危機や困難に直面している場合、その人々の顔や名前、つまり「身元」が明らかであることにより、人々がより多くの援助や支持を提供しやすいという状況を指します。

以下の表がこの定義を視覚的に示しています。

状況	援助行動
身元のわかる犠牲者	増加
身元の不明な犠牲者	減少

この効果は、特に寄付や支援行動に関連して研究され、個々の命や困難を具体的にイメージすることで、同情心や共感を誘発し、行動に移す傾向が強まることを示しています。

(2)この効果が生まれる背景・理由

「身元のわかる犠牲者効果」が生まれる背景は、人間の心理的な感情と認知の特性にあります。具体的には、共感や個別化の原理が大きく関わっています。身元が明確な犠牲者への共感は、抽象的な集団や数字よりも強く働く傾向があります。これは「具体性効果」や「 vividness(鮮やかさ)効果」とも関連しており、具体的な情報ほど記憶に残りやすく、感情移入しやすいという心理学の原理が反映されています。

また、個別化の原理も一役買っています。個々の命や事例を評価する際には、その重要性や価値を十分に認識できますが、大量の命や事例に対しては、その全体像を理解し、評価する能力が低下します。これを「大数の無感覚」とも言います。これらの心理的な特性から「身元のわかる犠牲者効果」が生まれます。

3.身元のわかる犠牲者効果が見られる具体的な事例

(1)寄付行動における事例

「身元のわかる犠牲者効果」は、特に寄付行動において顕著に現れます。例えば、災害や戦争などで被害に遭った人々への援助を呼びかける際、具体的な被害者の顔や名前、生活状況などを公開すると、一般的には寄付金が集まりやすくなるという現象です。

表1: 「身元のわかる犠牲者効果」寄付行動事例

事例	身元不明の犠牲者	身元がわかる犠牲者
寄付金額	低い	高い

この背後には、具体的な被害者の情報が個々の感情に訴えかけ、寄付行動を促進するからだと考えられます。これは「身元のわかる犠牲者効果」の一例であり、様々な援助行動においてその影響力を発揮します。

(2)評価行動における事例

身元のわかる犠牲者効果は評価行動にも影響を及ぼします。例えば、レビューサイトや口コミサイトで、実名や顔写真が付けられた評価が掲載されていると、その評価は信頼性が高いと感じられます。

次の表は、実名・匿名での評価投稿の信頼性についての比較です。

投稿種別	信頼性
実名投稿	高
匿名投稿	低

身元が明らかな投稿者の評価は、無記名のものよりも信用されやすい傾向があるのです。これは、評価者の「顔」が見えることで人間的なつながりを感じ、その人の意見に信憑性を感じるからではないでしょうか。この効果を理解することで、ビジネスやマーケティングに生かすことも可能になります。

4.なぜ身元のわかる犠牲者に影響されるのか？

(1)人間の心理と感情の影響

「身元のわかる犠牲者効果」の背後には、人間の心理と感情が大きく関与しています。具体的には、個々の犠牲者に対する共感や同情という感情が、援助行動を促進させます。

心理学的に見ると、具体的な個人の苦しみや困難に直面した際、人間は強い共感を感じます。この共感が、行動を起こす動機づけとなります。また、「身元のわかる犠牲者」に対する情報が詳細であればあるほど、その人物への同情心や援助意欲が高まるとされています。

以下の表は、具体性と援助意欲の関係を示しています。

具体性の程度	援助意欲
高（個人の詳細情報あり）	高
中（少し詳細情報あり）	中
低（詳細情報なし）	低

このため、「身元のわかる犠牲者効果」は、人間の心理と感情が重要な役割を果たしていると言えます。

(2)大数の法則が無視される理由

人間の心理では、大数の被害者よりも一人の被害者に対して強く共感や援助の意欲を感じる傾向があります。これは「大数の法則」が無視される理由です。簡単に言えば、大数の法則とは多くのデータを集めれば集めるほど、その平均値が真の値に近づくという統計学の法則です。

しかし、この法則が人間の感情には適用されにくいのです。例えば、1000人の犠牲者がいる災害と1人の犠牲者がいる災害では、理論的には前者をより深刻と認識すべきです。しかし、多くの人は具体的な顔や名前がわかる1人の犠牲者に対して強く共感します。これが、「身元のわかる犠牲者効果」が生まれる背景です。

5.身元のわかる犠牲者効果を利用したマーケティング戦略

(1)マーケティングへの適用方法

「身元のわかる犠牲者効果」は、マーケティング戦略にも応用可能です。一つ目の適用方法としては、製品やサービスの広告に具体的な顧客のエピソードを使用することです。これにより、可能な消費者に製品やサービスの具体的な効果を感じさせることができます。例えば、ダイエットサプリメントの広告に、一人の消費者が実際にどれくらい体重を減らせたかという実例を掲載します。

また、2つ目の方法としては、身元のわかるユーザーのレビューや体験談をウェブサイトやSNSで積極的に紹介することです。これにより、新規の顧客に対して信頼性を提供し、製品やサービスへの興味を引き出すことができます。

このように、マーケティングにおいて「身元のわかる犠牲者効果」を取り入れることで、消費者の感情を引き出し、購買行動を促すことが可能になります。

(2)身元のわかるユーザー効果とは？

「身元のわかるユーザー効果」とは、マーケティング分野において顧客や消費者の行動を誘導する際に利用される戦略の一つです。この効果は、消費者が特定の商品やサービスの選択を行う際、「身元が明らかな他のユーザー」がその商品やサービスを選択していることを知り、その情報に基づいて自身の選択を行うという心理現象を指します。

例えば、レビューサイトやSNSで「身元がわかるユーザー」からの評価や推奨文が掲載されていると、それを見た他の消費者は信頼性や安心感を感じ、同じ商品やサービスを選択しやすくなります。これにより、「身元のわかるユーザー効果」は消費者の購買行動を促進する強力なマーケティングツールとなり得ます。