1.はじめに:「基本的な帰属のエラー」とは何か
どういうことかと言いますと、「基本的な帰属のエラー」とは、心理学の領域で広く認知されている一種の思考の偏り(バイアス)のことを指します。具体的には、他人の行動を解釈する際に、その行動が個々の性格や性質によるものであると過度に判断し、状況や環境の影響を過小評価する傾向を指します。
例えば、ある人が授業中に寝てしまったとします。その行動を見た人が、「彼/彼女は怠け者だから寝てしまったんだ」と考えるのが基本的な帰属のエラーです。その人が前夜遅くまで勉強していた、体調が悪かったなど、行動背景の状況を考慮せずに性格に帰属してしまうのです。
このような認知の偏りは、対人関係やビジネスなど多様なシチュエーションで問題となり得ます。次節ではこのエラーがどのように発生するのか、理由と具体例を詳しく見ていきましょう。
2.基本的な帰属のエラーの歴史と初期の研究
(1)ジョーンズとハリスの1967年の研究
基本的な帰属のエラーについて初めて明確に定義したのは、エドワード・E・ジョーンズとヴィクター・ハリスの1967年の研究でした。彼らは被験者に対し、観察者が人々の行動を内的要因(個人の性格や能力など)に帰属する傾向が強いことを明らかにしました。
具体的な研究内容を表形式で見てみましょう。
研究内容 | 発見 |
---|---|
人々が他人の行動を観察 | 内的要因に帰属する傾向がある |
自身の行動を観察 | 外的要因に帰属する傾向がある |
この研究から、「基本的な帰属のエラー」という概念が生まれ、現在に至るまで心理学研究の重要なテーマとなっています。
3.基本的な帰属のエラーが起きる理由
(1)人間の認知バイアスとは
人間の認知バイアスとは、情報を取り入れ、解釈し、記憶する過程において、人間が持つ先入観や偏見により、客観的な事実から外れた認知や判断を行う傾向のことを指します。人間は無意識的に大量の情報から選択し、処理を行い、それらの情報を組み立てて現実を理解しようとします。その結果、誤った理解や見落としが生じることがあります。
以下に代表的な認知バイアスの一部を挙げてみましょう。
認知バイアスの種類 | 内容 |
---|---|
確証バイアス | 自分の考えや信念を支持する情報だけを優先的に探し出し、信じる傾向 |
錯覚的相関 | 関連性がない二つの出来事を関連があると誤解する傾向 |
ハロー効果 | 一部の良い特性をもとに他の特性まで良いと錯覚する傾向 |
これらの認知バイアスは、私たちが「基本的な帰属のエラー」を犯す原因の一つとなっています。
(2)なぜ我々は帰属のエラーを犯すのか
基本的な帰属のエラーは、我々が他人の行動を評価する際に犯しやすい認知バイアスの一つです。その主な原因は2つあります。
まず一つ目は、情報処理の容易さです。他人の行動に対し、個人の性格や能力を原因とする判断は状況や背景情報を詳細に分析するより簡単であるため、我々はこのパターンに頼りがちです。
二つ目は、自己中心的な解釈傾向です。他人の失敗を内的要因、つまりその人の性格や能力の欠如に帰し、自分の失敗を外的要因、つまり環境や他人の影響に帰することで、自尊心を保つ傾向があるのです。
これらの理由から我々は帰属のエラーを犯すのです。
4.基本的な帰属のエラーの具体例
(1)実生活での帰属のエラーの例
私たちの日常生活の中で「基本的な帰属のエラー」は頻繁に見られます。たとえば、ある人が何か失敗したとき、その人の性格や能力の欠如が原因だとすぐに結論付けることがあります。しかし、実際には状況や環境要因が大きく影響している可能性もあります。
以下に具体的な事例を表にまとめてみました。
失敗事例 | 帰属のエラー | 状況や環境要因 |
---|---|---|
テストの点数が低い | その生徒は頭が良くない | テスト前夜に家庭の事情で勉強できなかった |
遅刻をした | その人は時間を守る意識が低い | その日は特別な交通渋滞があった |
このように、「基本的な帰属のエラー」は私たちが他人を評価する際に無意識に起こりえる誤解を生む可能性があることを知ることは重要です。
(2)ビジネスやIT分野での帰属のエラーの例
ビジネスやIT分野でも、「基本的な帰属のエラー」はよく見られます。プロジェクトが成功した場合、自分や自社の努力や戦略を結果の主な要因と考える傾向があります。しかし、プロジェクトが失敗した時には、市場状況や競合他社の行動など、自分以外の外部要因を非難することがよくあります。
例えば、IT企業A社が開発した新製品が売れなかった場合、以下のような帰属が考えられます。
・成功時:「我々の開発力が高いから成功した」 ・失敗時:「市場環境が悪く、競合他社の製品が優れていた」
このような認知バイアスが生じれば、必要な改善策を見落とす可能性もあります。だからこそ、「基本的な帰属のエラー」を認識し、それを是正することが大切です。
5.基本的な帰属のエラーの影響とその低減方法
(1)帰属のエラーがもたらす影響
基本的な帰属のエラーは、個々の行動を特性に帰属してしまうことで、さまざまなネガティブな影響を生む可能性があります。具体的には、次のようなケースが考えられます。
1、誤解と不満:自分や他人の行動を誤った原因に帰属すると、誤解や不満が生じる可能性があります。例えば、ある社員がプロジェクトの遅延を彼の怠けに帰属すると、その社員に対する評価が低くなり、不満が生じる可能性があります。
2、パフォーマンスの低下:自分の成功を外部要因に帰属すると、自己効力感が低下し、パフォーマンスも低下する可能性があります。
3、関係性の悪化:他人の行動を内部要因に帰属することで、関係性が悪化する可能性もあります。例えば、友人の失敗を彼の能力不足に帰属すると、友人関係に影響が出る可能性があります。
これらは基本的な帰属のエラーがもたらす一部の影響であり、私たちの人間関係や業績に大きな影響を与えてしまいます。
(2)誤りの影響を低減するための対策
帰属のエラーを低減するには、以下の3つの対策が有効です。
- 自己反省:まず、自分が帰属のエラーに陥っていないか自己反省することが重要です。自身の思考パターンや行動に偏りがないかをチェックしましょう。
- 他者視点の導入:他人の視点を取り入れることで、自己中心的な見解を超えることができます。他者の立場や状況を理解することで、帰属のエラーを防ぐことが可能になります。
- 情報の収集:事象の全体像を理解するためには、情報を広範に集めることも重要です。偏った視点からではなく、多角的な視点から事象を理解しましょう。
以上の対策を心がけることで、基本的な帰属のエラーの影響を低減することが期待できます。
6.まとめ:基本的な帰属のエラーを理解し、適切に対処する
「基本的な帰属のエラー」は、人間の認知バイアスの一つであり、私たちの理解や判断を誤らせる可能性があります。このエラーは、他人の行動をその人の性格や能力に帰属させ、状況や環境の影響を見過ごす傾向があります。
1: 基本的な帰属のエラーの対処法
- より多角的な視点で事象を捉える
- 状況や環境の影響も考慮に入れる
- 自分自身の認知バイアスに気づく
しかし、認識すれば克服することも可能です。多角的な視点から事象を見ること、状況や環境の影響を考慮に入れること、そして自分自身の認知バイアスに気づくことが重要です。これらを意識し、日々の行動や判断の中で活用すれば、より正確な理解と効率的なコミュニケーションが可能となります。